ポケモンをやらない人のための本当のPokémon GO問題
それに伴って、様々なトラブルが報じられ、各所から、規制の声が上がっているようです。
一方で、報道などを見ると、やや正確な理解に欠けている部分もあるようです。
みんながポケモンをやるわけでもないですし、やる必要もありません。
しかし、ポケモンの規制の話は、ポケモンだけにとどまる問題ではありません。
これからの世界に生かしていく議論をするために、ポケモンのシステムと問題点をまとめてみたいと思います。*2
長くなったので、簡単にまとめると。
1.施設内でポケモンを出なくする措置はあまり意味ないかも?
2.爆発的人気で人が多かったのが問題の核心だけど、これから減るからそこは勘案できそう。ただ、今後のために考える必要もあるかも。
3.空間に情報を付与することは今に始まったことではない。けれど、実際の場所とのリンクが強いことや大勢の人がのっかるプラットフォームになっていることを踏まえた議論が必要?
4.いまポケモンに向けられている議論はこれから生まれるかもしれない未来の表現や技術にかかわること。
5.マナーを守って楽しく遊び、そして、学びましょう。
0.何をするゲームか
ポケモンを捕まえるゲームです。
と、書くと一行で終わってしまうことが、かえって誤解を招いているのかもしれません。イメージでいえば虫取りです。地図上に仮想的に置かれたポケモンを探して歩き回り、捕まえる。そして、育てて、戦わせる。それが基本になります。
上のマップ画面を見てください(個人情報のため一部を加工しています)。
自分が歩き回るとキャラクターも画面を動きます。
そこかしこに立っている棒のようなものがポケストップという拠点で、近づいてタップするとアイテム(ポケモンを捕まえるのに必要)が獲得できます。
また、地図上にいるポケモンをタップすると、右のような画面に遷移して、ポケモンを捕まえるという局面に移るわけです(ゲット画面、といいましょう)。画面に表示されている場所に飛びついて捕まえるわけではありません。画面上でボールを投げるだけです。
ここで、重要なポイントが二つあります。
①地図上のデータはゲームの開発元が以前から提供しているIngressというゲームでのデータを利用しているということ*3
②ポケストップもポケモンも半径約40mに入ってくれば、タップできる(表示される。そこまで行く必要はない)。
ということです。
1.人はなぜさまよい歩くのかー危険な場所に入るの?
高速道路に迷い込んだ人がいて危ない!
海外じゃ地雷原にまで入り込んだ奴がいるらしいぞ。
なぜ人はそんなにさまよい歩くのでしょう。
わかりません。
ポケモンは一定のアルゴリズム(場所、時間帯、天気など)に従って、地図上に出現するといわれています。そして、その近くに行くと地図上に表示されるわけです。近くまで行かないと地図上に表示されませんので、どこかにないかと歩き回って探すことになります。宝探しゲームみたいなものですね。
さて、出現する場所については、以下のような推測があります。
①ポケストップの近くはでやすい
②人通りの多い場所はでやすい*4
③ポケモンの巣
1-2については、確率の話ですので、言ってしまえばどこにでも出現する可能性があります。
問題は3です。ある特定の場所には、特定の希少なポケモンが出現しやすいといわれています*5。こういう場所にはその種類がほしい人は行きたくなるわけですね。例えば、ピカチュウがほしいから新宿御苑に行こう、みたいに。
逆に言えば、出るかもしれないし、出ないかもしれない、という場所にはとりたててその場所に行くようなインセンティブはないわけです(だからあえて、原発とかに入っていく意味はないんじゃないかな、と思います。ネタ作りや熱中しすぎて気づかず入る以外には)。
それから、GPSで平面上に置かれるだけですので、プレーヤーが地下にいても、地上にいても、高架の上にいても、関係はありません。ホームの端っこにポケモンが表示されている画面を見せて、危ないと書いている方がいましたが、ゲット画面上そこにいるように表示されているだけで、マップのどこに表示されていたかとは関係ありませんし、ましてホームの端っこに行く必要もありません。
ここまで、書くとわかっていただけると思います。
ある一定の場所でポケモンを出現しなくする、ということにはあまり意味がないのではないかと考えられます。例えば、駅の場合を考えて見ましょう。
駅にいるポケモンをとるために、外から駅や線路に入るケースは考えられません。地図上に表示されていれば、その時点でもう捕まえられるのですから。*6
次に、仮に構内に出現しなくなったとしましょう。しかし、駅周辺には出現する可能性があります。プレーヤーが駅の中にいても、駅の外に配置されたポケモンの40m以内に近づけば、捕まえることができます。つまり、構内でのプレーを制限することには必ずしも有効ではありません。
では、ポケモンが出現しない範囲を広げたら?しかし、周辺にはポケモンを誘客に使おうとしている施設があるかもしれません。駅の隣に、マック*7がある光景、ありますよね?地下鉄の駅や線路の上にある施設はどうなるでしょうか。
もし制限をかけるとしたら、特定施設にいるプレーヤーはアプリが起動しなくなる、くらいのことでなければ難しいでしょう。
2.ほかのアプリとの違いは?
そうなってくると一つ疑問がわいてきます。
ほかのアプリとどう違うというのでしょうか。
歩きスマホの問題は、今までもずっと指摘されてきたことです。毎日、駅でもアナウンスされていました(そういえばここ数日聞いていないような…いずれにしても歩きながらの操作は危険ですのでやめましょう)。*8
今日も、ほかのゲームをやりながらホームを歩いているお姉さんをみかけました。
では、そうしたゲームにもすべてそうした措置を求めるべき?
では、地図アプリは?画面の時計を見るのは?
一つには、やる人が多すぎた、というのが大きな違いだと思います。
リリース当初は大加熱でした。近くの公園でもみんなやってました。
そりゃあんだけ人が来れば、そして話題になれば、なにがしか対策を考えたくなるのもわかります。当然ですが、ゴミは持ち帰るべきですし、時間帯によっては周辺環境への配慮も必要でしょう。(飽き始めている人も多い様子。その点は今後の推移を見守る必要もあるかな、と思います)
一方で、今後もこのように多数の参加者を集める仮想現実などのソフトウェアはあり得ますから考えることには意味があります。
もう一つ、大きな特徴として、位置情報を使って、タグ付けをしている、という点があります。
3.場所に情報を付与することは新しいか
ポケモンゴーは、拡張現実(AR:Augmented Reality)の新しい法的問題の地平を開拓した、なんて捉えられ方もしています*9。
その中心になるのが、Virtual location rights(仮想的な位置の権利)です。
つまり、自分のおうちなり、お店なりのある場所に勝手に情報を付与していいの?ということです。
自分の家がポケストップになって便利だという人もいるかもしれませんが、毎日人が大勢集まってたら少しいやかもしれません。
あまり、ゲームがそぐわない場所*10に重要な場所としての意味が付与されてしまうかもしれません。
そうした場合には、開発元は削除申請を受け付けているようです。
しかし、こうした場所に対する情報のタグ付けも珍しいものとは言えないかもしれません。(そもそもポケストップとなっている多くの場所はIngressのプレーヤーがゲーム内の拠点として申請し、日夜遊んでいる場所です。*11)
また、それ以前にも、フィクションの情報がある場所に付与されて人が集まること、はありました。古くは、神話の世界の話になるかもしれません。
最近では、漫画などのモデルとなった場所に観光客が多く訪れるという現象もあります*12。
AR的な見せ方という意味では、今は亡き「セカイカメラ」*13が先駆的でした。
また、実際に、地図やカメラを使って表示をしなかったとしても、例えば「食べログ」のような形で、一定の「情報」が付与されることもあるわけです。
ポケモンゴーもある意味ではこうした系譜に属していると考えることもできます。*14こうした情報は、付与された場所の側から変更することが可能であるとは限りません*15。
そしてこうした行為は、少し大げさな言い方をすれば、世界への意味付けを変える「表現」でもあります。Ingressの標語は「The world around you is not what it seems.」(あなたの周りの世界は、見たままのものとは限らない)というものですけれども、世界の見え方はいろいろあるのです。そして、そのことは生を豊かにするものだと私は思っています。
そうした表現の問題と、実際の施設の管理の問題との兼ね合いは、これから考えらえるべき大きなイシューだと感じています。
開発元であるNianticは、Ingress、ポケモンゴーと、位置情報ゲームの大きなプラットフォームを2つ占有していることになります。彼らは、これまでのインターネットにおけるプラットフォーマーと同じような意味で、「ゲートキーパー」でありうるわけで、その点をどう考えるか(すべてをゆだねてよいのか。人を集めたい施設と集めたくない施設が併存する場所についてどう扱わせるのが適当か*16。表現の自由との兼ね合いは。)というのも論点となるかもしれません*17。
おわりに
開発元の代表者ジョン・ハンケ氏は、ポケモンの基盤となったIngressについても、ポケモンについても、人が外に出て歩くことの助けとなってほしい、と言っています。そして、それが世界をよくするのだ、とも*18。
それは、一つの事実をついていると思います。私も、家族らからなんでそのつまらなそうなゲームをと言われながらIngressをやっていましたが、拠点をめぐるうち、自分の住んでいる町や行く先々の新しい側面を知ることができました(普段気づかないような場所にもタグがあるから)。
もちろん、解決していくべき問題も、考えるべき事柄も多くあるでしょう。
できれば、その考えが、新しい世界の見方につながっているものであるように祈っています。
*2:清水さんのブログはすごく愛情を感じます。元ケータイゲーム屋が思うポケモンGOとIngressのイノベーション - shi3zの長文日記
*3:田舎にはない!と言われることがありますが、それは今までIngressで申請されたものが少なかったのです…例えば鳥取や岩手には多くの拠点があります。ポケGO砂丘解放区を作った男(2016年7月27日(水)掲載) - Yahoo!ニュース ; ポケモンGO岩手県盛岡市ポケストップの数が多い?トレーナーも多い | ふと雑記ブログ
*4:1-2については、正確にはIngressでXMと呼ばれるエネルギーの粒が表示されているところに多く出る、というものです。ポケストップと重なるIngress上の拠点である「ポータル」からはXMが出ますし、それ以外の場所にある「野良XM」はAndroid端末が一定時間停滞した場所に沸くといわれています。■道端に湧くXM(通称:野良XM) 人の多い所(おそらくAndroid端末が一定... : 【検証解説】ポケGOプレイヤー必須知識“XM” 海外勢が明かしたポケモン頻出ポイ... - NAVER まとめ
*5:【ポケモンGO攻略】トレーナーがこぞって集う“ポケモンの巣”ってナンだ!? [ファミ通App]
*6:実際にいるではないか、と言われるかもしれませんが、そういう方々はそもそも熱中しすぎて非合理な行動(不法侵入)をとっているわけです。出なくする措置、をとっただけで入らなくなるでしょうか
*7:マクドナルド。ゲーム開発元と契約を結びマクドナルドはゲーム中で拠点となっている。
*8:歩きスマホは違法にするべきか - 読書は人間の夢を見るか
*9:Pokémon Go and the law of augmented reality – TechnoLlama ; Pokémon Go has revealed a new battleground for virtual privacy
*10:海外ではホロコースト記念館や9/11のモニュメント。日本では平和公園などがあげられるでしょうか
*11:しかし、Ingress界にはマナーが形成されている部分があって、そうしたものがないうちに一気に広がったのはポケモンの不幸といえるかもしれません。【MMMMORPG】Ingress攻略(Wiki風味)【大規模社会実験】: ■プレイのお約束 これは一部。
*12:『スラムダンク』の聖地!江ノ電・鎌倉高校前踏切は台湾人に大人気の撮影スポット | 神奈川県 | トラベルjp<たびねす>; らきすたの舞台となった鷲宮神社はコンテンツツーリズム(「聖地巡礼」)の関係で有名。 久喜市商工会鷲宮支所(旧鷲宮商工会)ホームページ
*13:立ちどまるよふりむくよ:「セカイの終わり」とPokemon GO コノ、オオゾラニ、エアタグヲ (1/5) - ITmedia ニュース
*14:違う点といえば、やはり利用者の数とリンク感の強さでしょう。
*15:もしかしたらそうした仕組みが必要なのかもしれませんが
*16:申請があればすべて消す主義であれば、前者に不利に。そうでなければ、恣意的な選択が可能に、など。
*17:オンライン上のゲートキーピングの歴史(1) : HUSCAP ; 成原慧『表現の自由とアーキテクチャ』勁草書房, 2016などを参照
*18:Ingressの核心は「世界をよくするためには外に出ること」--川島優志氏インタビュー(前編) - (page 2) - CNET Japan
*19:米国での、ゲーム“Pokémon GO”と図書館(記事紹介) | カレントアウェアネス・ポータル; 越山乃風 on Twitter: "市の審議会で「図書館がポケストップになってるので、図書館に市内のポケストップとその史跡解説を記載した地図を作って貼りだすべきだ」と言ったら笑われた。
会長職の准教授が「いや、笑いごとじゃなくて」とフォローしてくれたのが救いだった。
https://t.co/mutBDuVKBr"