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読書は人間の夢を見るか

平々凡々な社会人の読書と考えたこと。本文・写真についてはCC-BY-SA。当然ながら引用部分等の著作権は原文著者に属します。

靴ひもを通してもらったはなし

僕の革靴はボロボロだ。

つま先は傷つき、見事な餃子型になっている。

ビジネスマンは足元から、という人からみれば、

ビジネスマンの足元にも置けないということになるだろう。

いいのだ。ボロボロに擦り切れるまで精一杯。そんな美学もある。

 

それでも、靴ひもが切れては歩けない。

これまでも何度か替えてきたが、経験上、そろそろ切れる。

そう思ったある日、僕は靴屋に向かった。

 

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真新しい靴が並ぶその空間は、なんとなく踏み入れることを躊躇させる。

何とか分け入っていくと、靴ひもをみつけた。

隣には、靴の修理と靴磨きのコーナー。

清潔感のある若いお兄さんが、靴の手入れをしている。

何か言われるんじゃないかと内心びくびくしながら、

ひもを見比べる。

丸ひもか、平ひもか、長さも、いろいろあるぞ。

清水の舞台から飛び降りるつもりで、200円の丸ひもに。

お兄さんに手渡す。

 

「よろしければ、お通ししましょうか」

明るく、優しい声だ。

このボロ靴に、200円のひもなんですけど、いいんでしょうか、

そう思いながらソファーに腰かけ、靴を渡す。

「もしかすると、こちらの300円のひものほうが合うかもしれません。

100円お高くなってしまうのですが…」

そうですか。同じひもに見えますが、でもそうなんでしょうね。

お願いします。

 

お兄さんは、ボロ靴から、丁寧に、

そんな靴をも、いつくしむように丁寧に、ひもを外し、

新しいひもを通してくれた。

そして、僕の渡した500円玉をもって、奥のレジまで走っていった。

申し訳ないことしちゃったな、と思いながらも、

僕はまたこの店に来る時のことを考えていた。

 

明日からまたこの靴を履いて、

丁寧にひもを通そう。

丁寧に精一杯。それだけでもいいのだ。