読書は人間の夢を見るか

平々凡々な社会人の読書と考えたこと。本文・写真についてはCC-BY-SA。当然ながら引用部分等の著作権は原文著者に属します。

航空機内で障害者席は決まっているか

もう、この話も終わりにしたいのですが、少しだけ。とりあえず、叩くために、あるいはできない理由を探すために、なんかあらさがししたりするのはやめませんか。このエントリも航空会社側を批判するためのものではありません。

多くの人が、自由に生活できるための妥協点はどこなのかな、というのを検討するためのものです。

 

バニラ航空、奄美路線での搭乗拒否「階段昇降のできない人は乗れません」

 

はい。この件です。

ラジオでも、解決して良かった事例として紹介した、とおっしゃってましたし、なんの問題もない話だと思いますが、気になる点が残ったので。

 

車いすで飛行機に乗る時は | いすみ鉄道 社長ブログ

車椅子の場合は席が指定されるとの指摘があるのに対し、当事者からは、とりわけ決まっていないはず、との声があったからです。

 

 1.事案の整理

整理します。

下肢に障害をもち車椅子を利用するA氏が関西空港奄美大島*1航空機を利用したところ、奄美大島空港ではタラップでの乗降で、昇降器具なども用意されていなかった。

往路は車椅子を持ち上げる形が許されたが、復路では社内規定上禁止であるとされ、歩けない人は乗れないと断られた。(腕の力で登った点については重要ではなく、腕の力で登ることも否定された=「歩けないこと」を理由に断られたことがポイント)

到着後、関係機関に申し入れを行い、奄美大島空港の当該路線に昇降器具が備え付けられることとなった。

なお、事前連絡*2が推奨されていたものの、歩行できない者から事前に連絡があった場合には利用を拒絶していた*3。(加えて当たり前ですが、復路ですので、利用があることは当然に想定できたはずです)

まとめると、

  • 利用できた!良かった!状況も改善された!
  • 本件で問題になったのは乗降であって、内部の席の配置ではない。
  • 特別な配慮は求めていなかったし、乗降も同行者グループで行おうとしたが断られた。

 

2.障害者は座れる席が制約されるか

というわけで、本件とは全く関係ないのですが、上記の件について検討します。

まず、航空会社が乗客の安全に配慮する義務、これはあります。それも付随的なもの(機内食とかみたいな)でなく、運送契約の中心的な義務とされています*4

今回の件でも、90秒ルール、というのに言及される方がいました。非常事態になったとき、90秒以内に脱出できないといけないんだ(だから、障害者を入れられない)。あります。日本では、航空法に基づく下位規定の中に「すみやかに脱出できるような設備を有するものでなければならない」(航空法施行規則附属書第1)、「90秒以内に脱出すること」(耐空性審査要領第Ⅲ部4-7項)などが定められています*5

でも、これ基本的には、航空機の耐空証明のルールです。そういう構造にしなさいよーってことです。「90秒以内に乗組員と乗客(実演するときの、老若男女そして幼児の構成比率も規定されている)全員が脱出できることを実演により証明すること」*6や、裁判例において(脳性麻痺により言語障害と両上肢及び両下肢に機能障害がある原告に関し非常事態における援助が)「例えば高齢者や児童あるいは下肢のみの障害のある人とどれほどの差異があるのか疑問」(大阪高裁平19(ネ)2425号, 平20.5.29)と指摘されているところからすると、これを排除の論理として使うのもどうなのかなあ、と思うところです(つまり、一定は予定されており、それを想定したうえでオペレーションが考えられていなくてはならない)。

 

次に、座席の指定についてです。

まず、非常口前。これは有名な話ですが、通達のレベルで限定があり、避難誘導ができないと座れないことになっています*7JALの契約約款を見ても、その座席をとった場合には変更ができるようになっているようです*8。このこと自体は、合理的な措置であると考えます。

 

では、それ以外の席はどうでしょうか。この約款を反対解釈すると、それ以外の席についてはどうしてもここ、というのはないように思われます。

鳥塚社長は、窓際に(法令上)決まっているようにおっしゃっていましたが、こちらの団体のページ(障害者の航空機利用の現状と課題)をみますと、今はどちらでも座れますよ、ということになってきているようです。実際、案内のサイト*9を見ても特段の指定はないように思われます。

少なくとも、物理的な意味でどの席でなくては、ということが決まっているわけではなさそうです*10

 

3.搭乗の上限と事前連絡

さてここで、一つの飛行機に乗れる障害者に上限があるのか、事前連絡が必要か、という点にも触れておきます。難しいです。よくわかりません。結局のところ、場合によりけり、ということになるでしょうか。

 

上限については、決まりがあるか、という意味だと、内規のレベルになってしまいそうで、わかりません。6-10人としている会社が多く、当事者側からも妥当とみなすものがあるようです*11。ただ、例えばパラリンピックのチーム移動とかはどうしているのかな、という疑問もあります*12

一つの参考として米国の連邦規則集(CFR)*13を見ると、上限をつけてはいけないことが明示してあります*14

上限をつけるということは(特に活動的な人が増えれば)、行動の制約を受けるケースが増えるということですから、徐々にキャパシティが拡大してほしいな、とは思います。

 

事前連絡について。これはもう少し複雑です。

これも、CFRを参考にしてみます。

CFRでは、事前の連絡を求めることを原則として禁止しつつ*15、限定的な場合にのみ72時間又は48時間前までの連絡を求めることを認めています*16。そして、連絡がなかった場合であっても、合理的な配慮が求められることには変わりありません。

 

一方、原則論として言えば、安全上の理由による契約解除は認められています。このときに、(特別な配慮が必要であることなど)事前の連絡がなかった場合には、搭乗拒否などの理由となりうるということのようです*17

事前連絡があった場合には、どうでしょうか。必要な準備をし、介助者が必要なら要請することになります*18。一定の場合には、連絡を取っておくことが双方の利益になる可能性が高そうです。

 

ただ、その「一定の場合」のラインをどこにひくのか、というのが問題なのです。

障害者手帳を持っているから?車椅子だから?

では、お年寄りや子供は。昨日から腰が痛くて動きが鈍い人や足が遅い人は。

連絡一本じゃないか、と言われますが、日常のあらゆる場面で連絡しなければいけないことを考えてみてください*19

以前にも書きました*20が、「迷惑」はひとそれぞれ。

どうしても無理、という限界を偏見のない目で考えて、みんなが自由に活動できるようになればいいな、と思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:なお、関空奄美便は当該航空会社のみ(グーグル調べ)だが、伊丹はある。当時者は、LCCは安いので、友達を誘いやすいということを言っていた。実際、旅行することを考えると障害者本人以外の周囲の人のことも考える必要がある

*2:車椅子ユーザーの家族として言えば、多くの場面で事前連絡が「推奨」されていると感じます。ただ、連絡したところで暗に断られることもありますし、逆に準備しますといってやってもらうことが明後日の方向だったり、現場には伝わっていなかったりということもあります。

*3:車椅子客、自力でタラップ上る…昇降機なく - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュースバニラエア、車いす客がタラップ自力で上がる 奄美空港 

*4:松井和彦「身体障害者の単独搭乗の拒否と航空会社の責任」『判例時報』2039号, pp.174-177. 後掲大阪高裁平19(ネ)2425号, 平20.5.29民7部判決に関する解説で、欧米の法制も紹介されている

*5:池内宏『航空法―国際法と航空法令の解説―』成山堂書店, 2016, p.103-104を参照した。なお、ICAOのAnnex8 airworthiness of aircraftにも同様の記述があり(90秒とは書いてない)国際的なルールということでしょう。

*6:非常脱出90秒ルール(ひじょうだっしゅつ90びょうるーる/ひじょうだっしゅつきゅうじゅうびょうるーる)とは - コトバンク

*7:運航規程審査要領細則http://wwwkt.mlit.go.jp/notice/pdf/201209/00005942.pdf

*8:JAL国内線 - 国内旅客運送約款

*9:例えば、[おからだの不自由なかたへの空の旅へのお手伝い]歩行の不自由なお客様へ|ANA 非常口の禁止とひじ掛けが上がらない席の注意があります。

*10:なお、チラッと見ただけのうろ覚えですが、先に上げた裁判の下級審判決(神戸地方裁判所尼崎支部平成16年(ワ)1217号, 平成19年8月9日)を見ると、某社内規のレベルで、ある型の飛行機について、通路側7名までとしていたとの記述があります。誘導の仕方に関する各社の姿勢を反映したものであって、法令レベルで決まったものではないのではないかと思います。

*11:障害のある人の航空機の利用等に関する問題点

*12:以下で紹介されてる海外事例でも、団体行動の場合に事前連絡が求められるケースがあるとのことで、一定数以上の利用も想定されているということではあると思います。 バニラ航空、奄美路線での搭乗拒否「階段昇降のできない人は乗れません」

*13:関係部分はこのあたり、14 CFR Part 382, Subpart B - Nondiscrimination and Access to Services and Information | US Law | LII / Legal Information Institute また、米国では、Air Carrier Access Act 1986というのがあって、解説なども用意されているのでそのあたりも見てみると発見がありそうです。Air Carrier Access Act | US Department of Transportation

*14:14 CFR 382.17 - May carriers limit the number of passengers with a disability on a flight? 10人以上の団体利用の場合は、事前連絡を求めることが認められている。後掲14 CFR 382.27(c)(6)前掲注の海外事例はこのルールに則ったものといえるかもしれません。

*15:14 CFR 382.25 - May a carrier require a passenger with a disability to provide advance notice that he or she is traveling on a flight?

*16:14 CFR 382.27 - May a carrier require a passenger with a disability to provide advance notice in order to obtain certain specific services in connection with a flight? 例えば、医療用酸素を使用する場合は72時間前の連絡。車椅子と関係するところでいえば、上述の10名以上のグループ。60席以下の飛行機における電動車椅子。バッテリー。60席以上でかつアクセス可能な化粧室を持たない航空機における機内車椅子の提供。

*17:松井 前掲注(4)いずれにしても、拒否が正当である、というケースは相当程度に限定されている。前掲の裁判例でも、事前連絡がなく判断する時間がなかったことから、不法行為等は否定された(損害賠償は認められなかった)とはいえ、上肢・下肢に障害がある方であっても(しかもこのケースは裁判例としてはリーディングケース=判断基準がなかった)、「特別の援助」が必要な場合には当たらない(契約を解除できる場合にあたらない)とされた。

*18:米国では、介助者の必要性について乗客と航空会社の見解が異なる場合には航空会社の見解が優先されますが、介助者分の料金は無料とされます。

*19:関連して障害の社会モデルについてググってみてほしい。誰もに優しい社会をいっしょに――「障害者の権利に関する条約」批准に寄せて / 青木志帆 / 弁護士 | SYNODOS -シノドス- | ページ 2

*20:公共マナーはもはや鉄板の炎上ネタということでもあり、特につっこまないことにしている。 - 読書は人間の夢を見るか