読書は人間の夢を見るか

平々凡々な社会人の読書と考えたこと。本文・写真についてはCC-BY-SA。当然ながら引用部分等の著作権は原文著者に属します。

ノーベル賞受賞者・フィールズ賞受賞者、「事業仕分けに対する緊急声明」について

本日、ノーベル賞フィールズ賞受賞者が集まり、以下のような声明文を出すと共に、科学技術予算をめぐる緊急討論会*1が開かれました。思うところがありますので、Blogを更新します。


ノーベル賞受賞者フィールズ賞受賞者、「事業仕分けに対する緊急声明」
http://university.main.jp/blog7/archives/2009/11/post_824.html


最初に、科学に対する私の考え方を明らかにしておくと、「無駄」だからこそ、科学であり、「無駄」さにこそ、価値を見いだすべきだと考えている。よって、その立場から以前以下を書いた。http://d.hatena.ne.jp/filled-with-deities/20080910/1221048504*2


以前、先生に言われたのは、「科学というのは、何千万の予算をつぎ込んめば、こうこうこういう結果が出ます、というものではあり得ない」ということ*3。これは、説得力を持っていると考えている。*4


とするならば、科学領域(つまりは「真/偽」という二値的なコードによって判別される世界)を「儲かる/儲からない」的なコードによって判別することは難しい、ということになる。
で、じゃあ、外的な判断基準は持ち込めないかというと、そんなことはなくて、「意義深い/意義深くない」という視点からこれを見ることはできる。しかし、これは、このコード自体に対してその妥当性を問うことが可能であり、無限背進に陥る。例えば、私は、研究計画書を「Wikipediaと知の編集」*5というテーマで提出した。吉見先生などは、「このテーマはわかりすぎるほどわかる」などとして、その意義を認めていた。しかし、考えてみると、この研究単独の意義は、狭い狭い(メディア論)研究者コミュニティーに閉じている。artworld*6の理論ではないが、研究の価値は研究者の世界(あるいはそれを評価できる人の世界)に閉じている。
去年、加速器の研究所でそこの研究者が言っていたこと。
「この研究は役に立たないし、他の分野との連関はありません。芸術とか文学のようなものです。でも、年間500億使って、世界最高の加速器を持っていないと(世界2位以下のを持っていても)無意味なんです*7。」


よって、これを、絶対的な妥当性として提示するには無理がある。そこには「正当性」を担保する仕組みが必要だ。それが、なんなのかわからないが、現実に多くの人によって話しあうことは難しく、最近東氏の言っている「民主主義2.0」的な仕組みでもないと無理ではないかと思う。
ただ、ノーベル賞学者が言うから、とか、政治家が言うから、とか、もちろん、マスコミが言うから、とかではなく、様々な状況を吟味しながら、ひとりひとりが考えていくことに、一定の意義を認めるべきではないかとは思っている。



そこで、重要なのは科学コミュニケーションだろう。
よく言われるように、科学者が自分の貴重な時間を割いてまで、一般人とコミュニケーションをとっていくモチベーションは今まで存在していなかった。
それが、現在のような状況になると、国民一人一人に対して、それこそ「意義」の説明が必要になってくる。「意義」を調達してくる必要がある。
その点から見ると、今回の討論会は失敗だったのではないか。
少なくとも、Twitterの反応を見る限り賛否両論であり、文系には理系の言ってる意義などわからない、というような発言あたりに批判もあった。
科学コミュニケーターを名乗る人々や、そういう「研究」をしている人々は今回何をやっているのだろうか。積極的にこういう場に、声明に、絡んでいくべきではなかったか、と思う。


来年から、ミドルマンよりもう一歩外側から、科学(学問)と関わるものとして。


PS 僕の周り(学生)は異常にこの件に関心が高いのですが、これは、特殊な事例なのか、学生はみんな関心があるのかどっちでしょう。

PS2 明後日には「大学、学術研究に関する国の動向について」が、東京大学関係者向けに開かれるようです。危機感が募っていますね。


*1:動画はここで見られる模様。前半 http://www.ustream.tv/recorded/2638211 と後半 http://www.ustream.tv/recorded/2638367

*2:なお、この体験を元に、某テレビ局の面接で、「加速器に税金が500億とか使われているんですよ。こんなことみんな知らないじゃないですか。こういうことについて議論したりすることって必要だと思うんですよね」というようなことを言った。今、まさにそう言う状況になっている。

*3:厳密には間違っているかもしれない。「サンキュースモーキング」を見た時か何かに

*4:だって、何が真かを考えるはずなのに、その先にある便益をすでに見てたらおかしいじゃない

*5:非常にざっくり言うと

*6:Arthur Danto

*7:研究にならないという意味