読書は人間の夢を見るか

平々凡々な社会人の読書と考えたこと。本文・写真についてはCC-BY-SA。当然ながら引用部分等の著作権は原文著者に属します。

レビューまとめ

ソチオリンピックにかかりきりですが、最近書いたレビューをまとめてみます。


今回は、
佐藤朋彦『数字を追うな 統計を読め』
竹田いさみ『世界を動かす海賊』
太田和彦『居酒屋の流儀 (黄金の濡れ落葉講座)』
井庭崇『社会システム理論: 不透明な社会を捉える知の技法
菅野仁『友だち幻想―人と人の“つながり”を考える』
です。



最初に、この本は統計学を用いた分析のための教本ではない。
だから、回帰分析や各種の検定を教えてくれるものではない。
それを期待して読んだ人には不満が残るだろう。


しかし、イチから調査を行わなくても、分析用のシステムを導入しなくても(いずれも大変なお金がかかる)「データ」に基づく評価はできる。
現に本書では政府の公開している「公的統計」を用いた分析の例がいくつか示されている。
本書は公的統計の専門家による公的統計にまつわる短い話の集積である。一話一話、興味深いテーマについてわかりやすく説明される。
分析の事例以外にも消費者物価指数の作成のための調査品目の指定など、統計がいかにして出来上がってくるのか、ということや、調べ方についても記述がある。
そうしたことを知っておくことは、公的統計を用いて何らかの分析を行ううえで重要なものとなってくることだろう。
この本が経済誌の書評などで好意的な評価を受けているのもうなずける話だ。


これから公的統計をさわる必要がでてきた、という方は一度目を通してはいかがだろう。


#オープンデータみたいなことが叫ばれる昨今。確かに機械可読性の高い資料はもっと求められてるのかもしれないけど、現状の公的統計にも見るべきものは結構あると思います。
時々現れるバズワードに惑わされるのではなく、使える数字を使ってみる、その一歩には良い本かもと思います。



一冊読めば、海賊問題の現状、対策が一通りよくわかる。
評者の知る限り、詳述されない論点も少なくないとはいえ、一般向けの書籍でソマリア沖を中心とした海賊問題について、これほどよくまとまった書籍は存在しない。(一方で新聞雑誌等に掲載された筆者の論考等の集積以上のものは望めない部分がある)
例えば、少し前のものでは土井全二郎『現代の海賊』交通研究協会があるが、内容的に古くなっているし、マラッカ周辺が中心である。
また、下山田聰明『ソマリア沖海賊問題』成山堂書店は問題そのものに対する記述はそれほど多くなく、保険の対応、各国の法制度など実務家・専門家向けの印象がある。


日本は輸入の99%を海運に頼っており(重量ベース)、更にソマリア沖はタンカーの通行が多い交通の要衝である。
すなわち、海賊は他人事ではなく、生活に直結する社会経済上のリスクであるといえる。
その点で一読の価値があると感じた。


#海賊、なんてカリブの海賊くらいしか思い浮かばないかもしれないが、日本は周りを海に囲まれていて、石油もほとんど輸入。
結構身近な問題だったりする。
批判的なレビューも散見されるけど、この問題に入門するにはちょうどいい一冊に間違いない。



こじんまりとした(チェーン店でない)居酒屋に一人ぷらっと入って適度に飲んで出る。
大二病も通り過ぎた男のコなら一度は憧れることではないかと思う。
本書は居酒屋に関するエッセイ集であり、筆者による居酒屋の選び方、マナーも紹介されている。
いささか時代が違うと感じるところもあるけれど(女性観とか)、まさに「流儀」なのだろう。


本書の最後のエッセイは、そして本のタイトルともなっている「居酒屋の流儀」というエッセイは息子と居酒屋に入る話だ。
「親父」と居酒屋に入って流儀を伝承することも少なくなった今日、日本酒で一杯やりながらページをめくるのもよいのではないだろうか。
多分向かいの席に姿が浮かぶだろう。


#こないだ大学の近くの居酒屋に始めて一人で入った。
卒業してからになってしまった。
この本にも、若いころいってた居酒屋に舞い戻る話が出てくるけど
わかるなぁ。



ルーマンの社会システム理論やパタンランゲージの研究などで知られる井庭先生の社会システム理論にまつわる対談集。
全体は井庭氏による(ルーマン)社会システム理論入門(序章)、宮台真司氏(ルーマン研究)との対談、熊坂賢次氏(パーソンズ研究)との対談、公文俊平氏(独自の社会システム理論の提唱)の4編に分かれている。


序章は(井庭氏が解するところの)ルーマンの社会システム理論の非常に簡明な解説であり、ルーマンに興味があるけどとてもじゃないけど読めない、という人は、パラットめくってみるのも面白いかもしれない。
その他三氏との対談はむしろシステム理論にまつわる話としてというよりは、昨今の情報社会の進展を2006年ごろという断面からみるという意味で興味深いものだった。
例えば、熊坂氏との対談における社会調査手法の話は今日言われる「ビッグデータ」的な手法にもつながってくるものであろうし、公文氏は最近ハフィントンポストで言及していた「ものづくり」的な問題に言及している。その他にも、今日的な議論を先取りにする話題が多くみられる。


ある主題について体系的に学ぶにはむかないかもしれないが、少しずつ世代のずれた4人の研究者の対話は現在の私たちにも示唆を与えてくれる。


#私にシステム論の何がわかるわけでもないのだけど、対談については、むしろもう少し広めの主題に興味を持っている大学生なんかが読むのにいい気がした。


友達に薦めたいか、という問いは商品の評価を聞く際に効果的な質問だと聞いたことがある。
この本を読んだとき、読ませたい知人の顔がすぐに何人か浮かんだ。


「友だち幻想」というタイトルをみるといかにも悲観的な内容なのではないかと思ってしまう。
しかし、筆者もそれを明確に否定する。
この本はつまりは(自分とは異質なものとしての)「他者」を前提とした人間関係のあり方についての本だ。
ほんの一例だが、批判的に扱われている「同調圧力」や「フィーリング共有関係」は何も青少年の友だち関係にだけ存在しているものではなく、
むしろ、多くの問題について、この概念を道具にして紐解くことができると感じた。


高校生前後が想定の読者だろうから、内容も書きぶりも平明だけれど、それは薄っぺらであることを意味しない。
それどころか社会学の研究の蓄積が記述の裏に透けて見え、厚みを感じる。
もとはといえば、Twitterで本を読まない私の妹向けにおススメの本を募集したときに、
著者から推薦を得たものだが、私にとっても読んで損がない本だった。


#先生におすすめいただいて読んだんだけど、ほんとに青少年だけではなく、大人社会における人間関係の問題にも敷衍して読み込める一冊だと思った。
よしもう一冊と思える本です