焦がれるものは
「野球わかるんか?って言われたら、当然のごとくカープの話が始まるんですね!」
広島に赴任した後輩が、驚きを語ってくれた。
プロ野球にもチームはいろいろあるし、大リーグや高校野球もある。
それでも広島で「野球」といえばカープのことだ。
なんの前置きもなく、今日の試合での若手のエラーの話が始まり、それを肴に杯を傾ける。
祖父も例にもれず、カープファンだった。
いや、以前に優勝した際には、会社で胴上げされたといっていたから、
その中でも、とりわけ熱烈なファンだった、ということなのかもしれない。
誰に見せるわけでもない、記録を取り続ける。
つまらないミスや気力のない試合などしようものなら、
「ハー!解散せぇ、解散じゃ」と罵倒する。
それを、毎日、毎日繰り返す。
健やかなる日も、病める日も。
富める日も、貧しき日も。
年齢的なものなのか、カープが負け続けているからなのか、
元気をなくしていた祖父のため、友人に無理を言って譲ってもらった
サインバットは、当時のスター・緒方選手のものだった。
その緒方選手もとうに引退して、監督になって。
黒田選手や新井選手は一度出て行って、戻ってきた。
球場もボールパークへと建て替わった。
10年も前に亡くなった祖父が知っているチームとは、
ずいぶんとメンバーがかわってしまったけれど、
生きていたら、間違いなく、その瞬間を見届け、喜びを爆発させていただろう。
東京ドームで、本通りで喜びを爆発させていたファンの姿に、
「解散せい」と言いながら、チームを愛し続けた祖父の姿を重ねてしまった。
広島中がコイ焦がれたチームに、待ち焦がれた瞬間が訪れたことを
心からお祝いしたい。
そして、CSには我がチームも出ることを、
そしてよい勝負をすることを祈っています。