続・国会で「プロバイダ」について何が語られたか―「質疑者」と「答弁者」
先日、国会での「プロバイダ」に関する発言において、何が語られているかを検討しました*1が、質疑者、答弁者といった役割によって違いがあるかという点も重要ではないかとの指摘を受けました。
重要な指摘だと思いましたので、分析を試みてみました。
ただ、国会会議録APIからは、質疑をしている側なのか、答弁を行っている側なのか機械的に判別する方法はないように思われましたので以下のような方法でラベル付けを行っています。
Role(役割)が示されている者については、そのまま(参考人、公述人)。
示されていないもののうち、肩書が政府関係の役職である者には「答弁者」のラベル。
委員長については、委員長のラベル。
それ以外の者(RoleもPositionも空欄で委員長でない者)には質疑者のラベルを付しました。
このようにした場合、1014の発言の内訳は次の通り。
委員長 | 2 |
公述人 | 1 |
参考人 | 53 |
質疑者 | 480 |
答弁者 | 478 |
ただ、実際には、法案の発議者で答弁をする場合などもあり、以上に当てはまらない例もあるかと思います。例えば、今回の対象で言えば、2013年の公職選挙法改正(議員立法)に伴う発言では、提案者による趣旨説明、答弁が「質疑者」とカウントされています。また、本会議における委員長の報告も「質疑者」とカウントされてしまいます。
これを踏まえた場合には、必ずしも経時的な変化にも特徴があるようには、思われません(ほぼ同等の経過をたどっているように見える。)。やや、興味深いのは、2011年の質疑者の山と2016年の答弁者の山です。前者はサイバー犯罪条約に関連した質疑において、プロバイダの語を使っているのが質疑者と参考人に偏っていることが一因となっています。後者については、ヘイトスピーチ解消法の関係の議論で、答弁者側が削除要請に言及していることが一つの要因になっているものと考えられます。
これは、前回のコーディングを使ったクロス集計からも一定程度見て取ることができます。犯罪に関連した発言は、参考人、質疑者で有意に多く、削除に関連した発言は答弁者側に多くなっています。
また、フィルタリングや医薬品に関する発言は、答弁者側に多くなっていることも特徴といえるでしょうか。
最後に共起表現を見てみます。
答弁者側で「委員」「指摘」「お答え」、質疑者側で「大臣」などが挙がっているのはある程度決まり文句的なところがあるかもしれません。
やや興味深いように思われるのは、答弁者側に違法、侵害、(数を増やすと有害も)といった語がみられることです。質疑者側からはある程度具体性のある事象・情報について発言がある一方、答弁者側からは一定程度抽象度の高い答弁が行われているということでしょうか。
これらは、質疑者、答弁者それぞれの共起ネットワーク図です。
質疑者側では、表現の自由や通信の秘密といった人権への言及や、何らかの書き込みへの被害が語られていることがわかります。
一方、答弁者側では、業界団体の自主規制や、人権機関からの削除要請、そしてプロバイダ責任制限法など、現在採られている対応に言及されてきたことがみてとれるのではないでしょうか。
上で述べたような下処理の限界もありますし、分析の制度の問題もありますが、一定程度質疑答弁の枠組みが見えてくる部分もあり、今後も何らか勉強を続けていきたいなと思います。