読書は人間の夢を見るか

平々凡々な社会人の読書と考えたこと。本文・写真についてはCC-BY-SA。当然ながら引用部分等の著作権は原文著者に属します。

白糸のこと

本郷三丁目の交差点から数十メートル。

赤い看板。

何でもない日に通った居酒屋だった。

焼き鳥の盛り合わせに、ニラ玉、たまに銀杏やエシャロット。


 思えば、20歳になってすぐの日も、この店の3階にいた。

半期の講義終わりの親睦会だっただろうか。

私の(交際)経験(がない)などといったたわいもない話をしたことが記憶に残っている。

 

「えいひれ」というものを知ったのも、この店だった。

7年ほど大学にいて、大学に住んでいるとうわさされた先輩が、頼んでいたのだ。

今でも、えいひれを食べるとこの店の雰囲気を思い出す。

 

授業であなたにとっての教育部*1とは、というお題が出れば、真っ先にこの場所に向かった。

 

就活の連絡待ちをしたこともあった。

電話がかかってきたと思ったら、別の居酒屋からの予約確認だった。

ケータイを投げ捨てようかと思ったが、ビールと一緒に涙をのみこんだ。

 

赤かぶも、チムニーも、さくら水産もなくなって、学生のころ歩いた街が変わっていっても、その店はそこにあった。

同窓会なんかの帰りに寄ると、2階のお姉さんが、嫌そうな顔をしながら接客をしてくれた。

そんなこの店も、ついに終わりの時を迎えた。

1月の終わり、店先に張り出された閉店のお知らせは、ネットをかけめぐった。

 

閉店を前にして、学生時代をともに過ごした、先輩、同級生、後輩(あと先生も)が、この店に集った。遠く北海道から来た人までいた。

あの頃と同じように、たわいもない話をして笑い、立場の違いを忘れて議論を交わした。先輩は今でも、えいひれを頼んでいた。

水と間違えて焼酎を飲んでいるうちにもうろうとしていった。

閉店の時間になって、本郷の交差点に出た時には、すっかり出来上がっていて、次の日に向けた後悔を始めながら、何もこんなところまで昔と同じでなくても、と成長しない自分を少し恨んだ。

顔をあげると、二次会に向かう先輩たち。見慣れた光景。この店が作り出してきた、こういう瞬間は二度と訪れないのかもしれない。そう思うと、こみ上げてくるものがあった。

 

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さよなら白糸。ありがとう。

 

*1:所属していた副専攻のようなもの

往復方式と片道方式による答弁時間の違い―予算委員会における首相答弁を例に―

暇ですね。

暇なときには、Rとかをいじってみましょう。

ということで、練習問題として、国会会議録で何か分析ができないか考えてみました(簡単なものに限る)。*1

さて、国会の予算員会質疑では、持ち時間というのが決められています。

○○さんは何分以内、というような形で。

ところが、この持ち時間のカウントの仕方が、衆議院参議院では違うのです*2

衆議院は、往復方式、といいまして、質問した時間も答弁している時間もすべてカウントされます。

一方、参議院は、片道方式といって、質問をしている時間だけが算入されるのです。すると、衆議院では(厳しい質問を受けたくないとすれば)長めに答弁をすることで、時間を消費できる、というわけです。

実際、答弁回数の比較から「一回の質疑に対して、ある程度答弁を引き延ばして答えている衆議院と、必要最小限の短い答弁を行う参議院となっていることがうかがえる」とするものもあります*3

 

そこで今回は、2017年~2018年の予算委員会における安倍首相の答弁を対象にその文字数を分析してみることにしました。

安倍首相に限定したのは、時期によって答弁者が異なることによる影響を排除するためと、操作の簡便のためです(笑)。

もちろん文字数なので、時間数を正確に反映したものではありませんし、事後に書き言葉に修正されている点にも留意する必要があるでしょう*4

 

基本的な統計量を示すと以下のようになります。

首相答弁文字数
最小値 平均値 中央値 最大値 標準偏差 N
衆議院 11 424.2 362 2456 304.7 1479
参議院 8 351.7 289 2184 279.3 1623

 

また、ヒストグラムを重ね合わせてみると下図の通りです。

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安倍首相予算委員会における答弁の文字数分布

 上図表を見る限り、参議院の方が文字数が少ない傾向にありそうですね。

一応、ウィルコクスンの順位和検定*5をやってみると以下の結果。

Asymptotic Wilcoxon rank sum test

data: num_Lower and num_upper
W = 1380000, p-value = 5.38e-13
alternative hypothesis: true mu is not equal to 0

帰無仮説は棄却できそうですね。

 

というわけで、今回の結果としては、一応、参議院の方が答弁が短いものが多そう、という風に理解したいと思います。

初心者の手習いですので間違いがあればご指摘ください。

上記について私又は所属する組織の見解ではないということを念のため申し添えます。

 

参考:ワードクラウド衆議院)あんまりおもしろくなかった。

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衆議院予算委員会首相答弁のワードクラウド

 

 

 

*1:会議録APIの操作についてはkaigirokuライブラリを使用させていただきました。ありがとうございました。amatsuo/kaigiroku: README.md

*2:2004-03-24 - 霞が関官僚日記

*3:木下健「過去 20 年間の衆参予算委員会における与野党対立構造の分析」『同志社政策科学研究』2012.9 https://doors.doshisha.ac.jp/duar/repository/ir/15533/019014010007.pdf

*4:会議録を用いた分析の限界については以下も参照。岡田洋平「日本語コーパスとしての「国会会議録検索システム検索用API」―計量的研究の精緻化・深化の可能性―」『新潟大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編』2018 http://dspace.lib.niigata-u.ac.jp/dspace/bitstream/10191/50680/1/11

*5:ウィルコクソンの順位和検定

よだれ鶏(口水鸡)の怪

ある日のことである。

Wikipediaを見ていると、よだれ鶏の項目がたっていないことに気が付いた*1

いつも、Wikipediaにはお世話になっている私のことである。たまには、貢献できないかと思い、一路、味の素食の文化ライブラリー*2へと向かった。

 

甘く見ていた。

よだれ鶏といえば、今やすっかりメジャーなメニュー*3

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よだれ鶏(自作)

レシピブックなり、辞典類なりを当たれば、すぐに情報が出てくると思っていた。

しかし出てこない。

『中国料理大全』、『中国名菜集錦』、『中国料理百科事典』めくっていっても、よだれ鶏という言葉は出てこない*4

似た料理は、出てくるのだ。

棒棒鶏は横に置くとしても、椒麻鶏*5や怪味鶏*6は、かなり近い線をいっている。むしろ、これの別名なのでは?とも思うのだけれど、よだれ鶏に関連付ける記述が出なかった。

そこで、気分を変えて、百度百科を見てみると、重要なことがわかった。

郭沫若在所著《賟波曲》中,有:"少年时代在故乡四川吃的白砍鸡,白生生的肉块,红殷殷的油辣子海椒,现在想来还口水长流……。"烹调赐拈来"口水"两字,倒成就了大名鼎鼎的"口水鸡"。 (口水鸡_百度百科)

どうやら、郭沫若という文人が、『賟波曲』という著作の中で、少年時代故郷の四川で食べた鶏料理(白砍鸡)を思い出すとよだれ(口水)が出てくるというようなことを書いており、これが料理名のもととなった、ということなのである。

では、とにかく『賟波曲』を見てみようではないか…と思ったけれども、そういう名前の書籍が出てこない。あきらめずに、少し頭をひねっていると、郭沫若には、自伝集がある*7ことに気が付いた。そこに収載の「私の幼少年時代」を見てみると…ついに発見した。少年時代なのに、学校の門を抜け出して酒を飲んでいるところである。

私たちはその近所で白斬鶏(パイチャンチ)を買ってさかなにした。嘉定の町の白斬鶏はとくに有名だった。作り方は簡単で鶏を水に入れて丸煮にし、よく煮えてから肉をうすく切り、トウガラシ醤油を加えてかきまぜるのである…(中略)…まっ白の鶏肉、真っ赤なトウガラシ、濃厚な醤油、…こう書きながらも、つばが思わずわいてくる。

(小野忍・丸山昇訳『郭沫若自伝1』平凡社, 1967, p.68.)

まさによだれ鶏である。

そして、これが由来ということなれば、よだれ鶏=白斬鶏となる。条件は、鶏肉の薄切りにトウガラシ醤油。いや、椒麻鶏、怪味鶏のようなソースであっても構わないのではないか*8

よだれが出るのであれば。

 

Wikipediaに書き込めるようなことがなかったので憂さ晴らしに書いてみた。口水鶏という名前が使われるようになったのは、どうもここ数十年のことのようである。書物を探すのならば、近年のモノをあらわなければならない)

 

 

*1:四川料理 - Wikipedia

*2:食の文化ライブラリーは、味の素食の文化センター付設の食文化に関する専門図書館である。江戸、明治、戦前期のものを含む約40000冊を所蔵しており、誰でも利用できる。詳しくはリンク参照。味の素食の文化センター | 味の素 食の文化センター

*3:どうでもよいが、ジャスミンのがおいしいと聞いた。自分で作ったのしか食べたことないかも…JASIMINE(ジャスミン)広尾本店

*4:より正確には、一冊簡易な辞典で触れているものがあったが、ほんの一行程度の記述であった。

*5:ゆで鶏の山椒ソースがけ

*6:ゆで鶏の怪味ソースがけ

*7:洪波曲というものもその一部

*8:実質的にはソースの違いだけである

256手ルールをめぐる疑問―AIとルールの付き合い方

2017年11月12日に開催された第5回将棋電王トーナメント(主催:dwango公益社団法人日本将棋連盟*1決勝トーナメント第2回戦 shotgun対Yorkieは、257手目に詰みの局面を迎え、先手shotgunの勝利となった。

この局面で問題とされたのが、コンピュータ将棋界におけるいわゆる「256手ルール」である。256手ルールとは、256手を迎えた時点で勝敗がついていない場合には、当該対局を(原則として)引分にする、というものである。当該条項は運営上の都合による手数制限の一種である*2

ところが、当該対局においては257手目の局面が詰みであることを理由として、立会人(勝又清和六段)が先手の勝ちを裁定したことから、視聴者等を中心に批判があった。*3

とりわけ問題とされたのは、(1)前日には257手目に宣言勝ちの局面が現われたにもかかわらず、引分と裁定されていること、(2)負けとなったYorkieは256手で引分というルールに基づきプログラミングされており、より長手数となる手順があったにもかかわらずこれを選ばなかったこと、である。

AIとルールという問題を考えるにあたり示唆される点も少なくないと考え、考えたことをメモしておく次第である。

以下、

 

の3点を論じる。

 

1.判断の時点

当該条項の記述は以下のとおりである。

 

(引き分けの判定)第22条 予選リーグ、決勝トーナメント共に、256 手を超えて、対局が続く場合、立会人がどちらのソフトの負けとも判定せず、千日手でもないときは、その対局を引き分けとする。

*4

 

これは、WCSC27回大会の以下のルール*5をモデルとしていると考えられる。

 手数が256手に達し、審判がどちらのプログラムの負けとも判定せず、千日手でもないときは、引き分けとする。なお、256手目をもって先手プログラムが本条第1項第一号に定める局面になった場合は先手プログラムの負けとする。

 ここで、WCSC27ルールでは、第2文から256手指し終わり時点で判断を行うことは明らかである(2016年12月の改訂で付け加えられた)。

また、電王トーナメントルールについても、(「引き分けとすることができる」ではなく)「256手を超えて、対局が続く場合…引き分けとする」とあることから、ある一時点において判断を行うことは明らかである。また、その時点は、(1)参考としたルール、(2)(「257手以上」ではなく)「超えた」という表記、(3)257手まで指されるとすると先手の有利が拡大する、といった観点から256手指し終わり時点とするのが相当であるように思われる。(256手を超えて、という表記がある以上255手以下や、258手に至ってからの判断とは考えにくい)

この対局の場合、大勢は決しており、確かに257手目で詰みの状態に至ったが、1手詰を発見できない場合も可能性としてはありうる(羽生棋聖も一手詰のところに逃げたことがあるし、コンピュータ将棋が明確な詰みを逃すケースも散見される)。

ここでは、257手目以降の情報は考慮に入れず、256手目時点をもとに判断すべきではなかったか。

 

2.立会人の権限

立会人は裁定の権限として当該条項における「立会人がどちらのソフトの負けとも判定せず」をあげる。しかし、第23条において、立会人による勝敗判定が規定されていることに鑑みれば、当該条項が新たに無条件の裁定権を与えたものとは考えにくい。

23条は以下の通り定める。

(立会人による勝敗判定)
第 23 条
次の各号に掲げる場合、立会人はそのソフトの負けと判定する。ただし、同時に両者がこの条件を満たした場合はその限りではない。
一 将棋のルールに則った指し手が存在しない局面になった場合。
二 累積消費時間が指定された持ち時間に達した場合。
三 ルール上指せない手を指した場合。
四 相手が正当な入玉宣言を行った場合。
五 正当でない入玉宣言を行った場合。
六 LAN 対戦において、CSA サーバプロトコル ver.1.1.3 に規定されない通信を行い問題が発生した場合。
七 5 手目思考開始後、ソフトの終了等により指し手の入出力が不可能となった場合。
ただし、原因が主催者側にある場合はその限りではない。
八 中断後、立会人が指定した局面・手番・消費時間からの再開がスムーズにできない場合。
九 本規程で禁止される行為を行ったと立会人が判定した場合。
通信ケーブルや電源切断等の事故、あるいは対戦サーバの不具合により中断した場合は、立会人が勝敗・引き分け・再戦・途中局面からの再開等の扱いを決定する。
本大会の進行上問題が生じた場合、対戦の途中であっても、立会人が勝敗(引き分けを含む)を決定することがある。
その他、トラブルがあった場合は、立会人が勝敗・引き分け・再戦・途中局面からの再開等の扱いを決定する。

当該対局は、(少なくとも256手時点で)1号から9号には該当しない。

問題となるのは「進行上問題」と「トラブル」条項である。

しかしながら、当該条項は不測の事態を想定したものであろう。であれば、256手ルールを明文で定めている以上、この規定を適用することは許されないと考えられる。

よって、裁定はその権限の上でも、疑問がある。

(ただし、そもそもルールの変更を含めた権限は主催者側にあり、判断自体を否定することはできない)

 

3.今後のルールに向けて

 プログラムは、事前に設定されたルールに基づき設計される。

自動運転車において「トロッコ問題」がクローズアップされるゆえんである。

今回の問題は、事前のルールに対する解釈が、主催者側(257手目以降も続くことがある)、参加者(256手で引分)で異なったことに第一の原因がある。ルールの明確性(立会人の権限も含む)*6やそれに対する合意が必要であるように思われる。

次に、手数として相当か、という問題である。近年のコンピュータ将棋は長手数化の傾向があるといわれ、256手が稀な事例ではなくなってきている。その中で、これを引分の基準とすることを是とできるか(ゲームの質が変わるのではないか)。

最後に(特にトーナメント形式の決勝において)時間節約の手段として適切か、という問題である。元々、運営上の都合(時間節約)で作られたルールであるが、指しつげば終わっている対局のために、再戦する必要が生じる可能性がある。別のルール(切れ負け、相入玉時の特別規定、暫定球的同時対局など)を設けることも考えられるのではないか。

以上の三点は、(1)明確なルールへの合意、(2)プログラムによる常識の変更、(3)ルールの本質への回帰、とまとめられるが、これは将棋プログラムに留まらない点のように感じられた。

人間を超えてまだまだ成長し続ける将棋プログラム。いつも楽しませていただいているけれども、今後一層の発展を期待したい。

*1:第5回 将棋電王トーナメント | ニコニコ動画

*2:世界コンピュータ将棋選手権(WCSC)に関する滝澤武信氏の記述による。電王トーナメントのルールは、WCSCのルールを参考にして作られている

*3:なお、shotgun作者は再戦を主張した。256手ルールが前大会から改変されていた件 | やねうら王 公式サイト

*4:http://denou.jp/tournament2017/img/rule/denou_tournament_rule2017.pdf

*5:http://www2.computer-shogi.org/wcsc27/rule.pdf

*6:正直言ってルールが曖昧で読みにくい部分がある

2017年 流行語大賞トップテン予想

久しぶりですが、流行語大賞ノミネートが出たようなので

流行語大賞評論家の端くれとして、トップテンと受賞者を予想しようと思います。

◎、○、△は順に対象の本命、対抗、穴、です。

(カッコ内は受賞者)

 

◎35億(ブルゾンちえみ氏)

○ひふみん(加藤一二三九段)

△9.98(10秒の壁)(桐生選手)

・インスタ映え(MOYA氏(カリスマインスタグラマー))

・ユーチューバー(ヒカキン氏(ユーチューバー))

フェイクニュース(平和博氏)

・睡眠負債(NHK取材班)

けものフレンズたつき監督)

・ワンオペ育児(藤田結子明治大学教授)

・忖度()

 

講評

分野別で考えてみると、政治・社会関係が多い。

今までの傾向を見ると、

・芸能

・スポーツ

・社会(IT)

・政治

・学術(メディアを通じた流行含む)

といったいくつかの分野ごとに複数個ずつ選ばれるものと考えられる。

 

この中で、スポーツは、9.98の一択。

近年スポーツ選手の大賞受賞が多いが、穴に留めた。

 

IT・社会では、インスタ、ユーチューバーが強そうだが、SNSかぶるか。

なんとか総研の人が受賞者となることも考えられるが、

ここは、一般人のカリスマを推したい(二人ともググった)。

社会現象として、ポスト真実フェイクニュースは入りそう。

受賞者が難しいが、個人的には平和博氏を推したい。

(GoHooの楊井人文氏、法政大学の藤代氏などもいるか)

働き方改革は、受賞者を想定すると悲しい気分になるので、外した。

ほかにはプレミアムフライデーあたりか。

 

睡眠負債、ワンオペ育児あたりはなんとなく感性。

学術要素がありつつ、昨今の風潮・社会問題を表現しているように感じられる。

上の働き方改革、プレミアムフライデーあたりのほか、うつぬけと入れ替わりそうな感じもある。

 

芸能関係では、お笑い物とそれ以外がある。

35億と空前絶後は迷ったが、周辺でよく聞くのは前者。

今年は将棋ブームが印象的だったこともあり、一語は入りそう。

大賞狙いでは顔のある言葉が強そうなので、「ひふみん」を推した。

けものフレンズは願望交じりである(見てない)。

 

難しいのは政治もので、読みにくい。

メディア的な流行という意味では、忖度、ちがうだろー、アウフヘーベンあたりか。

マイナス語が多く、受賞者選びも難しいか、ということで下位に入れた。

 

上三つあたりは、トップテンには入りそうだけど、

正直全く予想に自信がない

15年の時の予想はこちら。ノミネートが減ったり、かぶり語があるの見ると、

選定に苦労がうかがえますね。

流行語大賞を予想してみた。 - 読書は人間の夢を見るか

 

航空機内で障害者席は決まっているか

もう、この話も終わりにしたいのですが、少しだけ。とりあえず、叩くために、あるいはできない理由を探すために、なんかあらさがししたりするのはやめませんか。このエントリも航空会社側を批判するためのものではありません。

多くの人が、自由に生活できるための妥協点はどこなのかな、というのを検討するためのものです。

 

バニラ航空、奄美路線での搭乗拒否「階段昇降のできない人は乗れません」

 

はい。この件です。

ラジオでも、解決して良かった事例として紹介した、とおっしゃってましたし、なんの問題もない話だと思いますが、気になる点が残ったので。

 

車いすで飛行機に乗る時は | いすみ鉄道 社長ブログ

車椅子の場合は席が指定されるとの指摘があるのに対し、当事者からは、とりわけ決まっていないはず、との声があったからです。

 

 1.事案の整理

整理します。

下肢に障害をもち車椅子を利用するA氏が関西空港奄美大島*1航空機を利用したところ、奄美大島空港ではタラップでの乗降で、昇降器具なども用意されていなかった。

往路は車椅子を持ち上げる形が許されたが、復路では社内規定上禁止であるとされ、歩けない人は乗れないと断られた。(腕の力で登った点については重要ではなく、腕の力で登ることも否定された=「歩けないこと」を理由に断られたことがポイント)

到着後、関係機関に申し入れを行い、奄美大島空港の当該路線に昇降器具が備え付けられることとなった。

なお、事前連絡*2が推奨されていたものの、歩行できない者から事前に連絡があった場合には利用を拒絶していた*3。(加えて当たり前ですが、復路ですので、利用があることは当然に想定できたはずです)

まとめると、

  • 利用できた!良かった!状況も改善された!
  • 本件で問題になったのは乗降であって、内部の席の配置ではない。
  • 特別な配慮は求めていなかったし、乗降も同行者グループで行おうとしたが断られた。

 

2.障害者は座れる席が制約されるか

というわけで、本件とは全く関係ないのですが、上記の件について検討します。

まず、航空会社が乗客の安全に配慮する義務、これはあります。それも付随的なもの(機内食とかみたいな)でなく、運送契約の中心的な義務とされています*4

今回の件でも、90秒ルール、というのに言及される方がいました。非常事態になったとき、90秒以内に脱出できないといけないんだ(だから、障害者を入れられない)。あります。日本では、航空法に基づく下位規定の中に「すみやかに脱出できるような設備を有するものでなければならない」(航空法施行規則附属書第1)、「90秒以内に脱出すること」(耐空性審査要領第Ⅲ部4-7項)などが定められています*5

でも、これ基本的には、航空機の耐空証明のルールです。そういう構造にしなさいよーってことです。「90秒以内に乗組員と乗客(実演するときの、老若男女そして幼児の構成比率も規定されている)全員が脱出できることを実演により証明すること」*6や、裁判例において(脳性麻痺により言語障害と両上肢及び両下肢に機能障害がある原告に関し非常事態における援助が)「例えば高齢者や児童あるいは下肢のみの障害のある人とどれほどの差異があるのか疑問」(大阪高裁平19(ネ)2425号, 平20.5.29)と指摘されているところからすると、これを排除の論理として使うのもどうなのかなあ、と思うところです(つまり、一定は予定されており、それを想定したうえでオペレーションが考えられていなくてはならない)。

 

次に、座席の指定についてです。

まず、非常口前。これは有名な話ですが、通達のレベルで限定があり、避難誘導ができないと座れないことになっています*7JALの契約約款を見ても、その座席をとった場合には変更ができるようになっているようです*8。このこと自体は、合理的な措置であると考えます。

 

では、それ以外の席はどうでしょうか。この約款を反対解釈すると、それ以外の席についてはどうしてもここ、というのはないように思われます。

鳥塚社長は、窓際に(法令上)決まっているようにおっしゃっていましたが、こちらの団体のページ(障害者の航空機利用の現状と課題)をみますと、今はどちらでも座れますよ、ということになってきているようです。実際、案内のサイト*9を見ても特段の指定はないように思われます。

少なくとも、物理的な意味でどの席でなくては、ということが決まっているわけではなさそうです*10

 

3.搭乗の上限と事前連絡

さてここで、一つの飛行機に乗れる障害者に上限があるのか、事前連絡が必要か、という点にも触れておきます。難しいです。よくわかりません。結局のところ、場合によりけり、ということになるでしょうか。

 

上限については、決まりがあるか、という意味だと、内規のレベルになってしまいそうで、わかりません。6-10人としている会社が多く、当事者側からも妥当とみなすものがあるようです*11。ただ、例えばパラリンピックのチーム移動とかはどうしているのかな、という疑問もあります*12

一つの参考として米国の連邦規則集(CFR)*13を見ると、上限をつけてはいけないことが明示してあります*14

上限をつけるということは(特に活動的な人が増えれば)、行動の制約を受けるケースが増えるということですから、徐々にキャパシティが拡大してほしいな、とは思います。

 

事前連絡について。これはもう少し複雑です。

これも、CFRを参考にしてみます。

CFRでは、事前の連絡を求めることを原則として禁止しつつ*15、限定的な場合にのみ72時間又は48時間前までの連絡を求めることを認めています*16。そして、連絡がなかった場合であっても、合理的な配慮が求められることには変わりありません。

 

一方、原則論として言えば、安全上の理由による契約解除は認められています。このときに、(特別な配慮が必要であることなど)事前の連絡がなかった場合には、搭乗拒否などの理由となりうるということのようです*17

事前連絡があった場合には、どうでしょうか。必要な準備をし、介助者が必要なら要請することになります*18。一定の場合には、連絡を取っておくことが双方の利益になる可能性が高そうです。

 

ただ、その「一定の場合」のラインをどこにひくのか、というのが問題なのです。

障害者手帳を持っているから?車椅子だから?

では、お年寄りや子供は。昨日から腰が痛くて動きが鈍い人や足が遅い人は。

連絡一本じゃないか、と言われますが、日常のあらゆる場面で連絡しなければいけないことを考えてみてください*19

以前にも書きました*20が、「迷惑」はひとそれぞれ。

どうしても無理、という限界を偏見のない目で考えて、みんなが自由に活動できるようになればいいな、と思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:なお、関空奄美便は当該航空会社のみ(グーグル調べ)だが、伊丹はある。当時者は、LCCは安いので、友達を誘いやすいということを言っていた。実際、旅行することを考えると障害者本人以外の周囲の人のことも考える必要がある

*2:車椅子ユーザーの家族として言えば、多くの場面で事前連絡が「推奨」されていると感じます。ただ、連絡したところで暗に断られることもありますし、逆に準備しますといってやってもらうことが明後日の方向だったり、現場には伝わっていなかったりということもあります。

*3:車椅子客、自力でタラップ上る…昇降機なく - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュースバニラエア、車いす客がタラップ自力で上がる 奄美空港 

*4:松井和彦「身体障害者の単独搭乗の拒否と航空会社の責任」『判例時報』2039号, pp.174-177. 後掲大阪高裁平19(ネ)2425号, 平20.5.29民7部判決に関する解説で、欧米の法制も紹介されている

*5:池内宏『航空法―国際法と航空法令の解説―』成山堂書店, 2016, p.103-104を参照した。なお、ICAOのAnnex8 airworthiness of aircraftにも同様の記述があり(90秒とは書いてない)国際的なルールということでしょう。

*6:非常脱出90秒ルール(ひじょうだっしゅつ90びょうるーる/ひじょうだっしゅつきゅうじゅうびょうるーる)とは - コトバンク

*7:運航規程審査要領細則http://wwwkt.mlit.go.jp/notice/pdf/201209/00005942.pdf

*8:JAL国内線 - 国内旅客運送約款

*9:例えば、[おからだの不自由なかたへの空の旅へのお手伝い]歩行の不自由なお客様へ|ANA 非常口の禁止とひじ掛けが上がらない席の注意があります。

*10:なお、チラッと見ただけのうろ覚えですが、先に上げた裁判の下級審判決(神戸地方裁判所尼崎支部平成16年(ワ)1217号, 平成19年8月9日)を見ると、某社内規のレベルで、ある型の飛行機について、通路側7名までとしていたとの記述があります。誘導の仕方に関する各社の姿勢を反映したものであって、法令レベルで決まったものではないのではないかと思います。

*11:障害のある人の航空機の利用等に関する問題点

*12:以下で紹介されてる海外事例でも、団体行動の場合に事前連絡が求められるケースがあるとのことで、一定数以上の利用も想定されているということではあると思います。 バニラ航空、奄美路線での搭乗拒否「階段昇降のできない人は乗れません」

*13:関係部分はこのあたり、14 CFR Part 382, Subpart B - Nondiscrimination and Access to Services and Information | US Law | LII / Legal Information Institute また、米国では、Air Carrier Access Act 1986というのがあって、解説なども用意されているのでそのあたりも見てみると発見がありそうです。Air Carrier Access Act | US Department of Transportation

*14:14 CFR 382.17 - May carriers limit the number of passengers with a disability on a flight? 10人以上の団体利用の場合は、事前連絡を求めることが認められている。後掲14 CFR 382.27(c)(6)前掲注の海外事例はこのルールに則ったものといえるかもしれません。

*15:14 CFR 382.25 - May a carrier require a passenger with a disability to provide advance notice that he or she is traveling on a flight?

*16:14 CFR 382.27 - May a carrier require a passenger with a disability to provide advance notice in order to obtain certain specific services in connection with a flight? 例えば、医療用酸素を使用する場合は72時間前の連絡。車椅子と関係するところでいえば、上述の10名以上のグループ。60席以下の飛行機における電動車椅子。バッテリー。60席以上でかつアクセス可能な化粧室を持たない航空機における機内車椅子の提供。

*17:松井 前掲注(4)いずれにしても、拒否が正当である、というケースは相当程度に限定されている。前掲の裁判例でも、事前連絡がなく判断する時間がなかったことから、不法行為等は否定された(損害賠償は認められなかった)とはいえ、上肢・下肢に障害がある方であっても(しかもこのケースは裁判例としてはリーディングケース=判断基準がなかった)、「特別の援助」が必要な場合には当たらない(契約を解除できる場合にあたらない)とされた。

*18:米国では、介助者の必要性について乗客と航空会社の見解が異なる場合には航空会社の見解が優先されますが、介助者分の料金は無料とされます。

*19:関連して障害の社会モデルについてググってみてほしい。誰もに優しい社会をいっしょに――「障害者の権利に関する条約」批准に寄せて / 青木志帆 / 弁護士 | SYNODOS -シノドス- | ページ 2

*20:公共マナーはもはや鉄板の炎上ネタということでもあり、特につっこまないことにしている。 - 読書は人間の夢を見るか

棋譜中継の権利再考(追記)

はじめにお断りしておくと、本稿は論点をいくつか挙げることによって、賢い人が何か教えてくれるのではないかという期待に基づくものであり、この文章を読んだ行動によるいかなる行為に対しても責任を負いません。また、私見であって筆者の属する組織の見解とは無関係です。

 

さて、新星・藤井聡太四段の登場によって、将棋界が盛り上がっています。

人が集まってくれば、それだけトラブルも起こりやすくなるというものです。

先日、藤井四段も登場した朝日杯に関連して、以下のようなTwがありました。

 

 

1.著作権をめぐって

棋譜の権利、とりわけ著作権、については、これまでも様々な場面で議論が提起されてきました*1

 

棋譜著作権の観点から論じる、というのは古くから見られます。 

例えば、1978年に観戦記者の奥山紅樹氏が、本当に棋譜著作権があるのか、と問題を提起し、それに対して、木村義徳七段(当時)が批判的に応答する、ということがありました*2

発端となったのは、将棋連盟の地方支部を中心として発行していた『将棋あおもり』(『将棋天国』)の編集後記。プロの対局譜はかなりの金額を連盟に支払わなければならないから、対局譜は以後掲載しない、との趣旨が掲載されたことにあるようです(それ以前にも関係書籍の出版等で問題があった)。同好の士による勝手中継、という意味では、現在の問題に通じるところがあるかもしれません。

奥山氏によれば、当時、棋譜をめぐる公式の見解はだされておらず、あいまいなものだったようです*3

そのうえで、そもそも棋譜著作権が成立しうるのか、その場合、引用や観戦記等はどのような扱いになるか、著作権があるとすれば定跡はどうか、等の論点が示されました。

一方、木村七段の反論は、棋譜には金銭的価値が発生しているということを根拠に立論するもので、著作権の細かな論理に立ち入ったものではありません。ただ、ここでも一定規模以下の同人誌からは金銭を取らなくてもよいという議論や、取らない場合があったという事実が示されています*4

また、奥山氏・木村七段の論争の後には、国会でも棋譜著作権に対する質疑が行われ、犬丸直文化庁長官(当時)が著作権が認められる場合がありうる旨答弁しています*5

 

さて、著作権とは何でしょうか。

著作物、すなわち「著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(「著作権法」(昭和45年法律第48号))に認められる、著作者の権利のことです*6

ここで、重要なのは、「創作的に表現」という点で、単なる事実そのものや、アイデアに留まることがらなどは、著作物とは認められないと考えられています。

ここで、棋譜についてみると、これは、将棋の対局そのものが、勝利を追求したものであり、その一局面を決まった方法で記録したもの、つまりは、事実の記録物で創造性はありません*7。このように、著作権は認められなそうに思えるのですが、著作権法の起草にかかわった加戸守行氏は、棋譜を「共同の著作物」と解しているようで*8。油断はできません。*9

 

2.著作権以外の可能性

 さて、仮に棋譜著作権が認められないとして、勝手に中継したり、転載したりしてもよいものでしょうか。

ほかの権利を考えるにあたって、スポーツの放映権との関係を考えてみましょう。

中継映像に著作権が認められるほか、スポーツの放映権は、成文法には存在しませんが、その根拠を、(1)施設管理権、(2)選手の肖像権に求める見解があります。*10

将棋の場合、(1)の施設管理権が問題になるケースは少なそうです。

公開対局で目の前で行われるような場合にその中継を禁止することは考えられるでしょうか。また、解説会などとは関係が深そうです。

(2)の肖像権についても、棋譜に直接写真を添付する場合などを除いて、問題になるケースは少なそうです。

 

次にパブリシティ権というものも考えられます。

パブリシティ権というのは、その人の名前などにくっついている経済的価値を守るための権利です*11棋譜には、棋士の名前等がふされることが多いですから、これが差別化の要因と考えられるかもしません。ただし、基本的には、これまでの議論では商品化の話なので、勝手中継に適用できるかは難しい部分もあります*12

 

ところで、(独占)放映権は特定の人と人との約束によって生まれる権利・義務の関係です(債権)。こういう場合であっても、第3者の利用によって、独占性が侵害されれば、財産上の利益が侵害されることになりますから、損害賠償の請求が認められる可能性があります(不法行為*13

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 Photo via Good Free Photos

 

現に、Magnus Carlsen対Sergey Karjakinの対局に際し、主催のAgon Limitedが第3者による棋譜中継に対する事前差止請求を行ったところ、これは認められなかったものの、裁判官から当該案件がNBA v. Motrola*14に比されるものであって、損害賠償請求は認められうるという指摘があったようです*15

 

と、このように、棋譜そのものに著作権が認められないとしても、何らかの法的に保護されうる権利・利益の侵害にあたる可能性があるかもしれません。

また、そうでなくても、勝手中継は共有地に羊を放し飼いにするようなもの。

自分一人は大丈夫、と思っているうちに草木枯れ果て、スポンサーは撤退、棋戦は見られず、なんてことになってしまうかもしれません。自戒をこめながら、そのようなことが現実にならないことを願うとことです。

 

他方、連盟の側にも幾らか求められることがあるかもしれません。

1978年当時、連盟の収入増加策に発想の飛躍があり、社会に対する発言・行動が変わっていることを喜ばしいとしつつ、奥村氏は言います。

「連盟が堂々と記者会見でもしてその信を社会に問い、議題によっては棋士総会も公開し、社会との接点を太く豊かにしながら方針を打ち出していくことが今後この種の問題には欠かすことができないと思われます。でなければトラブルは増幅するばかりでしょう」*16

ブームの陰に、忘れられない問題がいくつか残っていることは確かです。

ファンの一人として、連盟が社会に議論を開くことを望みたいと思います。

 

追記

知的財産法を専門にされている神戸大学の島並良先生が以下のようにコメントされています。 *17

 

 

 

上であげておいた事柄はあながち的外れでもなかったでしょうか。

先生が挙げられている北朝鮮映画最高裁判決*18とは、放送局が北朝鮮の劇映画を無断で2分強放映したことに関する裁判です。

著作権法では、条約で保護の義務を負う著作物も保護の対象とされており、北朝鮮も加入しているのですが、国家として承認していないので、北朝鮮の著作物については国内で保護の対象とならないとされました。そこで、著作権だけでなく、利用許諾権の侵害を理由に損害賠償を求めました。

そして、判決の中で「著作物に該当しない著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではない」とされたのです。

反対に言えば、著作権とは異なる法的に保護された利益があれば、損害賠償請求が認められうる、ということです*19

 

そこで、朝日新聞は「朝日新聞社日本将棋連盟は、主催者として本棋戦の対局における棋譜を独占的に放送し、配信し、その他の方法で利用できる権限を有しており、そうした主催者としての権限は、法律上保護されるべき利益に係る権利」とのコメントを出しているわけです。*20

 

なぜ、上で将棋連盟がオープンにしてほしい旨書いたかといえば、

1.なんでスポンサーが矢面に立っているのだろう、という不可思議のほかに

2.棋譜の公開を通じた普及にとってどうなのか、という点があります。

将棋連盟の定款*21では、事業の第1として

棋戦を主催し対局棋譜の提供及び棋戦の解説講評等を行い、将棋の普及
啓発を推進する

があげられています。

棋譜の利用についてどこからどこまで許されるのか、許されないのか、という点をあいまいにする(すなわち、本来可能な利用も難しくする)のではなく、どこからどこまでが許されていないのか、を明確にすることこそ、普及啓発に資するのではないかと考えます。(全部の同時配信が許されないにしても、後日ではどうか、一部では、局面図ではどうか、など。局面図が許されない場合、性質上これについて語ることも難しくなるように思われます)

 

*1:機械学習等との関係でいえば以下など。将棋の棋譜には著作権は存在するのか? | やねうら王 公式サイト。なお、棋譜の権利については、リアルタイムか、事後か。公開対局を対局場で採譜したものか、中継の棋譜か、など場合分けが必要な部分があるかと思いますが、ここではリアルタイムで中継の棋譜を再入力したものを中心に検討します。

*2:奥山紅樹「78棋界スケッチ この一年の回顧によせて」『近代将棋』1978.12, pp.192-198; 木村義徳棋譜著作権をめぐって」『近代将棋』1979.2, pp.238-241.

*3:取材による感触として、棋譜には著作権が成立し、棋士はこれによって生計を立てなければならないから、当該棋士と契約を結ぶべきである、との見解が示されている。一方で、お隣囲碁界では1976年に日本棋院が「著作権を確立する運動と勉強をする専門委員会」を設置している(「棋界」『読売新聞』1976.6.27.あいまいさは続いていそうです日本将棋連盟による「棋譜の著作権」の主張について - 勝手に将棋トピックス。)。現在も、囲碁界のほうが積極的に棋譜著作権を主張しているようである。はいけいとして、将棋は将棋連盟で出版している雑誌が主であったのに対し、囲碁界ではそうでなかった、ということがあるかもしれない(「読者と編集者 棋譜の「禁転載」」『読売新聞』1961.3.30. 囲碁欄にだけ禁転載とあるのはなぜか、との読者投稿への回答。著作権は確立しておらず、掲載権を売られているものだが、その内容に取り決めがない、とも。)。

*4:当の『近代将棋』もしばらく棋譜掲載料を取られていなかった

*5:棋譜というものは、やはりそこに対局者の独創性というものが出てくる場合が多いと思います。やはり一種の知的創造物であるという場合が非常に多いと思いますので、そういうものであるということがはっきりすれば、これは著作権の対象になり得るものであろうかと思います」( 第91回国会 衆議院文教委員会会議録 14号
昭和55年5月7日, p.13.)

*6:なお、著作権については以下の連載がわかりやすいです。著作物の範囲については1-3回など。特集 : 18歳からの著作権入門 - CNET Japan

*7:渋谷達紀『知的財産法講義Ⅱ[第2版]』有斐閣, 2007, p.24; 「棋譜著作権 ネットなどで出回り問題に」『毎日新聞』2011.3.15, 夕刊(福井健策弁護士のコメント。ただし、勝利を追求しない(=美学による)手について、フリージャズセッションを再現した楽譜のようなもの、とみてハードルは高いとしながらも著作物性を認める余地を残している).

*8:加戸守行『著作権法逐条講義[六訂新版]』著作権情報センター, 2013, p.120.

*9:なお、欧米におけるチェスについては、著作権を認めないことになっているようです。Tom Platt"Stalemate Over Chess Broadcast Rights"<https://www.gtlaw.com.au/file/12648/download?token=i_xErvJX>

*10:國安耕太「スポーツ中継映像にまつわる著作権法の規律と放送権」『パテント』2014.4, pp.77-88.

*11:パブリシティ権について以下を参照した。結城大輔「裁判例に見るスポーツとパブリシティ権」『パテント』2014.4, pp.55-65.

*12:藤井四段クリアファイルを勝手に作る、とかは当てはまるでしょうか。一方、藤井四段熱戦譜とかは微妙な感じもあります(中田英寿事件参照中田英寿事件(第1審)(パブリシティ権の判例4) | 尾崎法律事務所

*13:國安 同上のほか、Masahiro Ito/伊藤雅浩 on Twitter: "(公開対局ではない)対局について棋譜中継をした場合,著作権等の知的財産権侵害という構成は難しいかもしれないが,法律上保護される利益を侵害するとして不法行為になる可能性は十分ありますね" ただし、差止請求までは認められない

*14:ひとまずウィキペディアで。National Basketball Ass'n v. Motorola, Inc. - Wikipedia

*15:Platt op. cit.(9)

*16:奥村 前掲注(2)

*17:これ以外に指し手ないし一局の将棋そのものの著作物性についても論じられています。

*18:判決文はこちら.http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/813/081813_hanrei.pdf

*19:山根崇邦「著作権法による保護を受けない情報と不法行為法[北朝鮮事件:上告審]」『著作権法判例百選[第5版]』, pp.228-229.

*20:将棋実況YouTuberに朝日新聞「権利侵害なので中止を」、何の権利侵害なのか? - 弁護士ドットコム ちなみに不法行為については民法709条で以下のように定められています。「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

*21:https://www.shogi.or.jp/about/doc/26_teikan.pdf